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福井地方裁判所 昭和28年(ワ)240号 判決

原告 山口豊二

被告 平松長子 外一名

主文

原告の被告両名に対する請求は、いずれも、これを棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第一当事者双方の申立

原告訴訟代理人は、「原告に対し、被告平松長子は、別紙甲号目録記載の土地を、被告荒川清吉は、別紙乙号目録記載の土地を、それぞれ、その上に存する地上建物を収去して明け渡せ。」との判決及び仮執行の宣言を求め

被告等訴訟代理人は、いずれも、主文同旨の判決を求めた。

第二当事者双方の主張

(原告の主張)

原告訴訟代理人は、請求原因及び被告の抗弁に対する答弁として次のとおり述べた。

(一)(1)  福井市日の出元町五十一番の二宅地二十四坪六合(以下、単に本件甲土地という。)は、もと、訴外岡研磨の所有に属していたが、同人は、昭和二十年十一月一日被告長子の父与三に対し期間を二年と定め、原告の承諾なくして、賃借土地上の建物の増減、変更もしくは改築工事を施行したときは、何らの催告又は通知なくして該賃貸借契約を解除しうる旨の特約付で、一時使用を目的として賃貸し、同人は、該地上にバラツクを築造し飲食店を営んで来たところ、原告は、昭和二十二年三月十日右土地を岡から買い受け同年四月十八日その旨の所有権取得登記を経由したが、その際、岡と与三との間の前記賃貸借における貸主の地位を任意承継し、その賃貸期間を、さらに、二年延長することとした。

(2)  次に原告は、前項記載の土地と南方地続きたる福井市日の出元町六十三番宅地三十三坪六勺(以下、単に、本件乙土地という。)を、昭和二十二年二月二十五日訴外重田良雄から買い受け即日その旨の登記を了したが、空地のまゝ放置していたところ、前記与三から、胡麻作りのため一ケ年借り受けたい旨の申入があつたので、原告は、これに応じ、同年七月頃胡麻の収獲を終つたうえは、直ちに、返還すべき約定の下に、該土地を与三に貸与した。

(二)(1)  しかるところ、与三は、昭和二十三年一月頃本件甲土地上のバラツクの一部を、原告に無断で、被告清吉に譲渡し、該敷地に対する賃借権を譲渡もしくは転貸したので、ここに、原告と与三との間の賃貸借契約は、前記特約の趣旨に基き、当然、解除された。

(2)  仮に、しからずとするも、与三は、昭和二十三年五月頃前記両土地に跨る建物の築造に着手したので、本件甲土地に関する賃貸借契約は、前記特約に基き、当然、解除となり、また、本件乙土地についての賃貸借は、使用目的の違反により解除され、仮に、しからずとするも、前記期間の満了により終了したものである。そこで、原告は、その頃与三に対し、右建築中止等の仮処分決定を得てその執行をしたが、同人は、これを無視して建物を完成してしまつた。

(三)  その後、与三は、昭和二十五年六月九日死亡し、被告長子が右建物の所有権を承継取得するに至つたので、原告は念のため被告長子に対しても、昭和二十六年八月七日附通知書により、本件甲土地につきなされた前記無断転貸を理由として前記賃貸借契約を解除する旨の意思表示を発し、右通知書は、翌八日被告長子に到達したので、仮に、右賃貸借契約が存続していたとしても、右は、右解除により終了したというべきである。

(四)  しかるところ、本件甲、乙各土地は、福井市の都市計画に伴う換地処分により、昭和二十六年八月三十一日合筆のうえ、街衢番号二〇二、指定仮地番九、仮換地指定地積三十二坪八合六勺と指定されたところ、被告等は、従前の土地の上にあつたそれぞれの所有建物を右土地上に曳舞し、右土地のうち、被告長子は別紙甲号目録記載の土地上に、被告清吉は、別紙乙号目録記載の土地上にそれぞれ、建物を所有し、以て、いずれも、原告の右土地に対する所有権を妨害しているので、ここに、原告は、被告等に対し土地所有権に基き、それぞれ、地上建物を収去して、右各土地の明渡を求めるため本訴に及ぶ。

(五)  なお、与三の法定相続人は、被告長子と訴外川端ちよ子の両名であるが、仮に、与三死亡当時、本件賃貸借は、未だ、終了していなかつたとしても、右ちよ子は、その相続した賃借権を放棄したのである。そして、別紙甲号目録記載の土地上の建物は、与三と被告長子の両名が占有していたのであり、与三死亡後においては、被告長子のみがこれを使用占有しているので、原告は、ちよ子を除外して被告長子のみを相手取つて本訴を提起したのである。

(六)  被告の抗弁事実は、否認する。

(被告長子の主張)

被告長子訴訟代理人は、答弁及び抗弁として、次のとおり述べた。

(一)  原告の本訴は、権利濫用として許されない。すなわち、原告は、且つて、福井地方裁判所に対し被告を相手方として、本件と同種同型の訴を提起していたところ(当庁昭和二十六年(ワ)第二三七号土地明渡請求事件)、一旦、該訴を取り下げ、さらに、本訴を提起したのである。従つて、本訴は、原告の権利行使につき濫用ある場合であつて(訴訟法上、所謂シカーネ、又は、シカーネン)この点において、本訴は、却下さるべきである。

(二)  原告主張事実中、本件甲土地は、もと、訴外岡研磨の所有であつたところ、同人は、これを被告長子の父与三に賃貸し、原告が、その後、その所有権を取得し右賃貸借における貸主の地位を承継取得したこと、原告が与三に対し本件乙土地を賃貸したこと与三が、旧建物を一部拡張したこと、与三の相続人としては、被告のほかに訴外川端ちよ子があること、及び、本件甲乙土地につき原告主張の如き換地の指定があり、被告が、旧建物を仮換地上に曳舞したことは認めるが、その余の原告主張事実は、否認する。

(三)(1)  本件甲土地につき、岡と与三との間に締結された前記賃貸借契約は、与三において、該地上に建物を所有する目的であり、従つて、その賃貸期間は、建物朽廃に至るまでの定めであつた。仮に、賃貸借契約証書(甲第三号証)に期間の定めが記載されていたとしても、右は、地代改訂その他賃借条件の変更協定をなす期間を定めたに過ぎないのであり、仮に、賃貸期間としても、原告主張の如き期間は、借地法第十一条により賃借人たる与三に不利益なものとして排除さるべきである。

(2)  本件乙土地につき締結された原告と与三との間の前記賃貸借は原告主張の如く胡麻収獲を目的とするものではなく、前同様、与三において建物所有を目的としたものである。すなわち、右土地は、本件甲土地の裏側に接続した土地であつて、与三所有の前記建物は、これに跨つていたため、原告からの申出により与三は、更めて、昭和二十二年六月二十日本件乙土地を地代一坪月当り金三円として賃借することとなり、翌七月分からは、本件甲土地と合して二口で金百九十七円五十八銭宛を支払つて来たのである。

(3)  与三は、右両土地を賃借後、新たに、地上建物を築造したことはない。尤も、建物の板の破損等一部を修築したことはあるが、決して、仮処分に違反して、新たに、建物を建築したものではない。

(四)  与三は、被告清吉に対し地上建物の一部を譲渡したことはないのである。すなわち

(1)  与三は、従前、被告清吉、訴外内田清治及び同木村政治から寸借していた金一万円を返済できなかつたため、これを楯として、同人等から与三の飲食店営業を共同経営すべき旨の申出を受け、やむなく、与三もこれに同意し、右地上建物の一部を共同事業に使用させたところ、右三名は、俄かに、右建物の敷地まで、与三から賃借した旨主張するに至り、昭和二十四年七月頃その地代を供託して来たので、与三は、このような事実のないことを、当時、内容証明郵便その他の方法により明白にしておいたところが、右建物の一部は、その後、与三に無断で、家屋台帳上被告清吉所有名義に登載されてしまつたのであるが、右は、前記三名において、建物使用の関係、ないしは、前記金員貸借の弁済確保のために、このような形式をとつたものと考えられる。しかしながら、右は、全く、与三の関知しないところであり、与三は、未だかつて、右建物の所有権を被告清吉に移転したことはないのである。

(2)  仮に、与三が、右建物の所有権を被告清吉に移転したことがあつたとしても、右は、単に、前記金員貸借の弁済確保の手段としてなされたに過ぎず、いわば、一種の売渡担保を以て目すべきである。しかるところ、民法第六百十二条は、本来、賃借人において、賃貸借の基調をなす信頼関係に背反した場合に、賃貸人に対し賃貸借の解除権を与えた趣旨と解すべきであるが、本件における如く、賃借人において、地上建物の一部を他に担保に供した程度を以てしては、未だ、賃貸借における信頼関係を裏切つたものとはいい難いうえ、今日においては、右担保関係も、一切決済である。

(五)  叙上のとおりであるから、原告主張の契約の解除は、いずれの点においても理由がなくその効力を生ずるに由なきものである以上本件賃貸借契約は、未だ、存続しているものといわねばならないから(区劃整理の結果、換地上に、依然、従前の借地権が存することについては、多くを説明する要なきところである。)、これが終了したことを前提とする原告の本訴請求は、もとより、失当といわねばならないのである。

さらに、原告主張の昭和二十六年八月七日附契約解除の意思表示は、次の点においても、無効である。すなわち、被告清吉の土地使用の開始が、仮に、転貸に当るとしても、原告は、昭和二十三年以降右解除の通知時まで、三年有余の間、右事実を看過承認していたのであり、少くとも、暗黙に、右転貸を承諾していたのであるから、これを無断転貸なりとしてした原告の右解除の意思表示の無効たること論をまたないところである。

(被告清吉の主張)

被告清吉訴訟代理人は、答弁として、次のとおり述べた。

(一)  原告主張事実中、本件甲土地は、もと、岡研磨の所有であつたところ、同人は、これを与三に賃貸し、原告が、その後右土地の所有権を取得し、右賃貸借における貸主の地位を承継取得したこと、与三が、原告主張の頃死亡したこと、本件甲乙土地につき、原告主張の如き換地の指定があり、旧建物が仮換地に曳舞されたことは認めるが、その余の原告主張事実は、争う。

(二)  被告清吉は、与三から、原告主張の如く、土地の転貸もしくは賃借権の譲渡を受けたことはないのである。すなわち

(1)  与三は、かねてから、本件土地上で飲食店を経営していたところ、昭和二十一年九月頃被告清吉から、金一万円の融資を受けたが、さらに、同被告に対し重ねて金二万円を融資してくれるよう申し込んだ、ところが、当時、被告清吉は、さしたる資力を有しなかつたので、訴外内田清治同木村政次に協力を求めた結果、同年十一月一日、与三、被告清吉、内田及び木村の四者間に、(イ)訴外者両名は、各金一万円宛を与三に貸与すること、(ロ)四者は、共同して飲食店を経営する旨の協定が成立し、同日、訴外者両名は、与三に対し金一万円宛を貸与した。

(2)  そこで、同年十二月十日頃から、被告清吉等三名は、与三の新築した建物の東側半分を使用してアイスキヤンデーの販売業を営み、与三は、右建物の西半分を使用して飲食店営業を開始し爾来、今日に至つたのであるが、その間、被告清吉等において訴外横山某に右建物部分を転貸したことから、一時、与三と被告等三名の間に紛糾を生じ、ために、被告等は、右建物部分の所有権を主張し、或は、地代の供託をなす等の挙に出たこともあつたが、その後、右紛争は、両者間に示談が成立し、円満に解決済である。

(3)  叙上の如く、被告清吉は、別紙乙号目録記載の土地上に、何らの地上建物を所有するものではないから、同被告に対し地上建物の収去を求める原告の請求は、明かに、失当であるといわねばならない。

第三証拠

原告訴訟代理人は、甲第一号証から第三号証、第四号証の一、二、第五号証、第六号証から第十号証の各一、二、第十一号証、第十二号証の一から四、第十三号証から第十五号証を提出し、証人横山伊佐吉及び横山伊三郎の各証言竝びに原告本人尋問の結果(第一、二回)を援用し、乙第一、第二号証、第三号証の一、二、第四号証の一から四、第五号証、第十、第十一号証の各一、二、第十二号証から第十五号証、第十七号証、第十八号証の一、二の各成立は認める、乙第六号証、第七号証の一から三、第八、第九号証の各成立は知らないと述べ、乙第十六号証の認否をしなかつた。

被告長子訴訟代理人は、乙第一、第二号証、第三号証の一、二、第四号証の一から四、第五、第六号証、第七号証の一から三、第八、第九号証、第十、第十一号証の各一、二、第十二号証から第十七号証、第十八号証の一、二を提出し、乙第十六号証は原告方において作成した旨説明し、証人高塚小久、内田清治(第一、二回)、宇野喜之、奥村捨録及び斎藤新之助の各証言竝びに被告長子(第一、二回)及び被告清吉本人の各供述を援用し、甲第一号証から第三号証、第四号証の一、二、第五号証、第六号証の一、二、第七、第八号証の各二、第九、第十号証の各一、二、第十一号証、第十三号証から第十五号証の各成立を認め、うち、第三号証、第四号証の一、二、第五号証を利益に援用すると述べ、甲第七、第八号証の各一、二のうち、いずれも郵便官署作成部分のみの成立は認める、その余の甲号各証の成立は知らないと述べた。

被告清吉訴訟代理人は、証人高塚小久及び内田清治(第一、二回)の各証言竝びに被告清吉本人の供述を援用し、甲第一、第二号証、第四号証の一、二、第五号証、第六号証の一、二、第七、第八号証の各二、第九、第十号証の各一、二、第十一号証、第十三、第十四号証の各成立を認め、甲第七、第八号証の各一のうち、いずれも、郵便官署作成部分の成立は認める、第十五号証のうち、法務局作成部分の成立は認めるが、その余の部分の成立は知らない、その余の甲号各証の成立は知らないと述べた。

理由

第一被告長子に対する請求の当否

(一)  先ず、被告長子は、原告の本訴請求は、権利行使につき濫用ある場合として許されない旨主張するから、按ずるに、本件で顕われた各証拠資料及び本件口頭弁論の全趣旨を綜合すれば、原告は、従前、当裁判所に対し被告長子等を相手取つて本件各土地の明渡請求訴訟を提起していたところ(当庁昭和二十六年(ワ)第二三七号)一旦、該訴を取り下げ、さらに、本訴を提起した事実を認めることができる。しかしながら、右は、他に、特段の事情なき限り、訴訟法上原告に許容された正当な権利の行使といわねばならないから、これを目するに、権利濫用を以てする被告の所論には、とうてい、左袒するを得ない。されば、被告のこの点に関する主張は採用し難い。

(二)  ところで、原告は、被告等に対し、それぞれ、本件各土地所在の地上建物の収去を求めているにも拘らず、右地上建物を特定していないのであるが、本件証拠資料によれば、被告長子に対し収去を求める建物は、登記簿上福井市日ノ出元町四十一番地家屋番号同町四十六番木造板葺平家建居宅一棟(建坪五坪五合)(家屋台張上は、同町四十六番木造板葺平家建店舗十六坪)であることが窺われ、また、被告清吉に対し収去を求める建物は、家屋台帳上同町十六番の二木造板葺平家建店舗五坪と認められるから、以下においては、便宜、前者を本件甲建物、後者を本件乙建物と略称して判断を進めることとする。

(三)  そこで、原告の被告長子に対する訴の適否について考察するに、該訴は、原告と与三との間に成立していた本件甲土地に関する賃貸借契約が終了したにも拘らず、与三は、右土地上に本件甲建物を所有して右土地を占有し、以て、原告の右土地所有権を妨害していたところ、与三は、昭和二十五年六月九日死亡し、被告長子において右建物の所有権を承継取得するに至つたので、原告は、被告長子に対し右土地所有権に基き、本件甲建物を収去して右土地の明渡を求めるというのである。しかるところ、与三の法定相続人は、被告長子のほか、訴外川端ちよ子(大正四年十一月十七日生)が存することは原告の自認するところであるから、右ちよ子において相続放棄をした形跡もなく、また、右建物が遺産の分割により被告長子の単独所有に帰したとも認められない本件においては、本件甲建物は、右両名の合有に属すべきものといわねばならない。されば、本訴は、右両名の共同相続人に対し、訴訟にかかる権利関係が合一にのみ確定すべき所謂固有の必要的共同訴訟に該当すること明かである。この点に関し、原告は、ちよ子において相続した賃借権を放棄した旨主張し、或は、現在、被告長子が右建物を占有していることを理由として、被告長子に対してのみ本訴を提起した旨釈明するけれども、このような事由を以てしては、もとより、前記の結論を左右し、以て、原告の本訴を正当ずけするに足る理由となし難いことは、また、多くを説明する要なきところであろう。叙上の次第であるから、この点を看過し右ちよ子を除外して被告長子のみを相手取つて提起された本訴は、すでに、この点において失当として排斥を免れないのである。

(尤も、いずれも、成立に争ない甲第六号証の一、第十一号証によれば、本件甲建物は、すでに、昭和二十三年十月以前から、登記簿上、被告長子の単独所有名義に登載されていることが窺えるのであるが、この点を捉えて、原告が、被告長子のみを相手取つて本訴を提起したのであれば、原告の主張自体、変更を余義なくされる筋合である。しかるに、原告は、本訴において一貫して前叙の如き主張を維持している以上、当裁判所としては、この点を論外として、前叙の如く、判断せざるを得ないわけである)

第二被告清吉に対する請求の当否

(一)  原告主張事実中、本件甲土地が、もと、岡研磨の所有に属し、同人は、これを与三に賃貸していたところ、原告が、その後右土地の所有権を取得し右賃貸借における貸主の地位を承継取得したこと、与三が、原告主張の日時に死亡したこと、本件甲、乙土地につき原告主張の如き換地の指定があり、被告長子が地上建物を仮換地上に曳舞したことは、当事者間に争がない。

(二)  しかるところ、原告は、昭和二十三年一月頃被告清吉が、与三から本件乙建物を原告に無断で譲渡を受け、以て、これを所有することにより別紙乙号目録記載の土地を不法に占有している旨主張するに対し、被告清吉は、本件乙建物は自己の所有ではない旨抗争するから、以下、この点について検討する。

いずれも、成立に争ない甲第六号証の二、第十三号証によれば、本件乙建物は、家屋台帳上、被告清吉の所有名義に登載されている事実を認め得べく、かつ、郵便官署作成部分については成立に争なく、その余の部分については、当裁判所が、真正に成立したと認める甲第八号証の一の記載及び原告本人の供述中には、これに添うかの如き趣旨の部分が存するのであるが、本件においては次のような事実の存在することを考慮するとき、これらは、未だこの点に関する適確な証拠となし難い。すなわち、証人内田清吉(第一、二回)、横山伊佐吉、横山伊三郎及び高塚小久の各証言竝びに原告本人(第一、二回)及び被告清吉本人の各供述を綜合すると、次のような事実を認めることができる。

(1)  与三は、予ねて、被告清吉から金一万円を借り受けていたところ、昭和二十一年頃同被告に対しさらに、金二万円を融資してくれるよう申し込んだので、同人は、機業仲間であつた訴外内田清治同木村政次に対し、与三に、それぞれ、金一万円を貸与してやるよう要請した結果、その頃、与三、被告清吉、右内田及び木村の四者間に、訴外者両名は、それぞれ、与三に対し金一万円宛を貸与し、四者は、共同して、与三が、本件甲土地上に新築した建物において、飲食店を営業することとなつた。しかるに、与三は、昭和二十一年十二月頃、約旨に反して、共同事業を開始することを拒否するの態度に出たため、四者間で再び折衝の結果、与三は、右建物を二つに区分し、その西側半分を自己において使用し、その東側半分(本件乙建物)を被告等三名に使用させることに協議が調い、爾来、与三は、右西側に当る本件甲建物で飲食店営業を、被告清吉等三名は、昭和二十二年六月頃から本件乙建物でアイスキヤンデー製造業を開始するに至つたこと

(2)  ところが、被告清吉等は、右営業の閑散期を迎えた同年九月頃近隣の時計商横山伊佐吉の求めに応じ、本件乙建物を、翌年五月までと定めて同人に賃貸したところ、期限に至るも、同人がこれを明け渡さないため、同人と被告清吉等との間に悶着が生じたのであるが、その頃から、右をめぐつて、与三と被告清吉等との間にも紛争を生じ、与三は、被告清吉等に対し本件乙建物の明渡を請求するに至つた。

そこで、被告清吉等は、前記貸金の弁済確保の一手段として、与三に無断で、本件乙建物の家屋台帳上の所有名義を被告清吉名義として、さらに、その敷地の地代を供託する等、本件乙建物は被告清吉の所有であるかの如き態度を示したので、両者の関係は、益々、紛糾するに至つたが、その後、四者間に、話合がもたれた結果、従来の紛争は、一切水に流し、円満に示談解決するに至つたこと

以上認定事実に徴すれば、本件乙建物は、一貫して与三の所有であつたものと認めるのが相当である。そして、本件においては、その他原告主張事実を認め得べき何らの証拠も存在しないのであるから、本件乙建物が被告清吉の所有たることを前提とし同被告に対しこれが収去を求める原告の請求は、その余の点を判断するまでもなく、明かに、失当として棄却を免れない。

第三結論

上来説示の次第であるから、原告の被告長子に対する請求は当事者適格を欠く訴として棄却すべく、また、被告清吉に対する本訴請求は理由がないから棄却を免れず、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八十九条を適用し、主文のとおり判決する。

(裁判官 神谷敏夫 可知鴻平 川村フク子)

甲号目録

福井市日の出元町五十一番の二宅地二十四坪六合及び同町六十三番宅地三十三坪六勺に対する換地予定地指定地たる街衢番号二〇二、指定仮地番九、仮換地指定地積三十二坪八合六勺

別紙図面のとおり、右土地の西南隅を(イ)点、西北隅を(ロ)点とし、(イ)点から表道路との境界に沿い、東方へ五間二分三厘を測定した地点を(ニ)点、また、(ロ)点から右仮換地指定地の北方隣地との境界に沿い東方へ五間四分を測定した地点を(ハ)点とし、右(イ)点、(ロ)点、(ハ)点、(ニ)点の各点を順次に、結ぶ直線で囲む範囲の土地

乙号目録

乙号目録甲号目録掲記の仮換地指定地中、同目録に表示した範囲の土地を除外したその余の土地

図〈省略〉

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